古いイタリア製楽器の修理2023/06/07

50年程度以前に製造されたイタリア製アコーディオンの修理を承りました。


楽器はイタリアのSonolaという今は無いメーカーの物です。
10年前にアコーディオン専門店から購入した中古品との事です。
不具合は、右手の音が出ない箇所がある、右手のスイッチの動きが悪く
切り替えができない時がある、ベース側のスイッチの切り替えができない、
空気漏れがある、全体の調律の狂い..などです。


付属していたベルトを見て驚きましたが、この状態でよく使っていたと思います。
革製ではないベルトですが、切れる寸前です。
ベルトは切れる前に交換する必要があります。
傷んできたら早めに交換しないと本当に切れたら楽器を落とす事もあります。
できればベルトは革製を使ってください。
革製以外はお勧めしません。


ベースのバンド(ベースストラップ)も傷んでいます。
これが切れる事は殆どありませんが、内側が硬くなってヒビ割れが出たら
手の甲が痛くなるので、硬くなったら交換時期です。


スイッチの切り替えに問題がありますが、原因は楽器の外にありました。
スイッチの周りにある樹脂製のカバーがスイッチと干渉している事で
切り替えの不具合が起きています。
よく見ると、カバーの周囲にある古い接着跡が見えていますので、
外れた時の修理に問題があったのではないかと思います。


樹脂のカバーを外しました。
この状態だと切り替えは問題なく行えます。


カバーの接着面をヤスリで整えます。


スイッチの作動に支障がない位置で接着固定しました。
古い接着跡は完全には取れないので、これは諦めるしかありません。


空気漏れが多いので、蛇腹と本体の合わせ目にあるパッキンシールを交換します。
これで改善しない場合もありますが、空気漏れの時はこれが最初の選択となります。


楽器の内部を見ると、リードに貼ってある薄い革製のリードバルブが
斜めにズレている所が幾つもあります。
隣のリードに触れているような所もあるので、
発音しない所はこれが原因の一つでしょう。
古い楽器ですがリードバルブ自体は交換されているので
反りなどの異常は殆どありません。


リードバルブの上に貼ってある細い金属のバネが内側に反っている所があります。
普通に使っていてこのようにはならないので、意図的に調整されたのだと思います。
まっすぐな物もあるので、何故一部だけ曲がっているのか不明です。
これも発音に影響するので直します。


問題のあるリードバルブを修正する為に一旦外しました。
殆どの箇所を外す事になりました。


外したリードバルブを見ると、接着は両面テープのようなもので付けられています。
これが理由で、斜めに曲がっている所が多いという事が分かりました。
明らかに間違った修理方法です。
基本的にアコーディオンの組み立てで粘着テープを使う箇所はありません。
固まらない接着方法は今回のように位置がズレますので。
粘着テープを使うのは、楽器の外の部分のエンブレムの固定程度しかありません。
専門店で購入したという中古ですが、この修理がどの時点で行われたのか不明です。
きちんと修理を習っていない人が修理した楽器も流通しているという事を
購入する人は知っている必要があるでしょう。


ベース側です。
ベースのスイッチも切り替えに問題があります。
この楽器はスイッチが1つしかなく、1つのスイッチを押すと交互に
2通りの選択が切り替わるという方式です。
古い楽器に時々見られますが、近年の物では採用されていません。
恐らく故障が多いからでしょう。
この楽器も切り替えができない状態です。


スイッチを押すと、1つはこの状態になります。


もう一度スイッチを押すとこの状態になります。
修理前は常にこの状態でしたが、原因を特定して修正する事で
交互の切り替えができるようになりました。
ただ、この方式は不安定なので使っていくと問題が出るかも知れません。
このような方式の中古は避ける方が良いでしょう。


ベースボタンの高さにバラつきがあります。
また、戻りが悪い所もあります。
本格的には全てバラシて修理しますが、今回は問題が大きい部分のみ修理します。


ベースストラップを交換します。
手前は交換する新しい物です。
幅も広く、厚さがあるので演奏しても手が痛くなりません。


修理、調律を完了しましたが、内蔵マイクを入れる事になったので
取り付け作業をします。


全ての作業が完了し、お渡しするだけとなりました。
音も外観も綺麗になりました。
手前の袋の部品は取り外して交換した物です。
使えない物ですが、交換した証に返却しています。