引っ越し2023/03/20

当店で販売したアコーディオンですが、
ベースボタンの戻りが悪い箇所があるという事で修理する事になりました。


ベースの裏蓋を外しました。


蓋を外した時に、ベースストラップの端へ向かって
黒い小さな何かが動いたような気がしました。


注意深く観察すると、ストラップの影に潜む物を発見しました。
これはハエトリグモですね。
ベースストラップの穴の隙間から入ってしまったのでしょう。


傷つけないように捕獲するのが大変でしたが、なんとか捕獲しました。
店の裏口から出て、外の草の生えている所へ逃がしました。
これで一安心ですが、この楽器、愛媛から戻ってきたものです。
一緒に送られてきたクモは愛知まで引っ越しする事になりました。

ベースボタンの方は修理しました。
保証期間は過ぎていますが、30分以内の修理でしたので修理費は無償です。

ベースの異物2023/03/10

ベースボタンを押した時の音がおかしい、という事で修理を承りました。
楽器は古いEXCELSIORで、長く使ってきた物のようです。


ベースの異常はすぐに確認できたので、分解してみると
何か黒い物がベースメカニックに入り込んでいます。


黒い樹脂の破片のようなものです。
これが原因で意図しない音が混ざっていたようです。


異物は2個だけでした。
1つの部品から割れた物です。


取り出した異物はベースストラップのきつさを調整するダイアルを
支持している部品の一部です。


ダイアルはストラップとネジで繋がっているので外れていませんが、
ストラップを外すと支持する部品が壊れているのでダイアルが外れます。


ダイアルを外しました。
この楽器では全体が樹脂でできており、ネジ部分のみ金属です。
部品は楽器に接着されていて、外すのはちょっと大変です。
近年の楽器では全体が金属でできています。
大きな力が掛かる場所で、壊れると演奏の継続が困難になるので
金属製の方が安心です。


修理するためには部品を外す必要がありますが、接着されているので
できれば外さずに行いたい所です。
ですが、古いEXCELSIORでは小型楽器でも120ベース入っているので
ダイアル部品周辺に手が入る隙間が殆どありません。
ダイアル部品を外すか、ベースメカニックを取り出すか、という選択になります。


という訳で、ダイアル部品を取り外しました。
割れてしまった軸受けと反対側の残っている方にもヒビが入っています。
オリジナルを使って修理するには接着するしかありませんが強度の問題が残ります。
本当は金属製の最近の部品と変えてしまうのが良いのですが、
交換する為には本体の加工が必要な事と、ベースメカニックを取り出す必要があるので
今回は接着修理で直す事にしました。


接着修理しました。
これを本体に戻せば完了です。


ダイアルは直りましたが、ベースストラップが経年で傷んでいるので
併せて交換します。
ストラップは切れる事は殆どありませんので、10年以上もそのままで使っている人が
多いですが、硬くなって手の甲が痛くなったり、見た目が悪くなっているので
10年以内に交換する事をお勧めいたします。

交換する時はストラップだけではなく、付随する金属部品も交換します。
この楽器は古い物で、ネジのピッチが今の部品と違っています。
新しい部品が使えないのでネジ部分だけオリジナルを使います。


ネジ以外の金属部品は新しい物と交換します。
見た目もリフレッシュできます。


ストラップの新旧です。
上が付いていた物で、下が新しい物です。


ダイアル部分とストラップを交換し、ベースの問題はなくなりました。


ベースストラップだけではなく、ショルダーストラップの劣化も激しいです。
これはすぐに交換が必要な状態です。
見た目が悪いというだけではなく、楽器の金具に通す部分の劣化が剥がしく、
いつ切れてもおかしくない状態です。
通常、ここまで使ってはいけません。
ベルトは切れる前に交換が基本です。
切れると演奏の継続ができませんし、楽器を落下させて怪我や楽器の損傷を招きます。
交換したら3年以上は使えます。
年間の維持費は僅かですので、ここはケチらないでください。


その他、楽器の機能的な部分の補修が必要な状態です。
蛇腹と本体の合わせ目のパッキンシールが劣化していて空気漏れが起きています。
交換する事で空気漏れが改善します。
この楽器は古い物ですが、リードの錆やリードを留めているロウの劣化はありません。
全体の調律を行う事で良い状態になります。

2度目2023/03/03

在庫していたチェコ製アコーディオンを販売する為に
点検、調整、調律を行っています。


右手のリードですが、画像の中の1つに異常があります。
矢印のリードですが、何が異常なのか分かるでしょうか?


答えは..
該当リードに貼ってあるリードバルブの向きが間違っていました。
先日ブログに書いた、小型ダイアトニックの新品にも同じ事がありました。
表裏の間違いは時々ありますが上下は珍しいです。
先日、珍しいと書いたばかりなのに、こんなに早く2回目に遭遇しました。



これは隣の正常な方ですが、薄い樹脂が2枚重ねてあり、
上になる方は透明で短い物が貼ってあります。
透明な物が付いている方が表であり、リードの根本側になります。
問題のリードでは上下が逆さまで、
短い透明樹脂のある方がリード先端側になっています。
この状態でもバルブは開くので音は出ます。
なので、詳細な点検をしなければそのままでユーザーまで行くでしょう。
場合によっては生涯、気づかずに使う事になるかも知れません。
新品楽器でもこのような小さな不具合や調整不良が沢山あるのが普通です。
販売前の調整、調律で同じ楽器でも全く違った状態になります。
これは有名メーカーでも高級楽器でも同じです。
高価な楽器だから、有名ブランドだから大丈夫という事は絶対にありません。


同じ楽器の右手リードですが、木枠の内側にあるリードバルブが戻っていません。
木枠の内側の木に加工時にできた凹凸があり、バルブの先端が引っ掛かって
戻りが悪くなっています。
これも音は出ますが、蛇腹の開閉に伴い雑音が出たり調律が変化するので
異常に気付ける場合もありますが、一つずつ動作を目視して行けば確実に分かります。
新品楽器でも4~7日程度、調整、調律に時間をかけています。

新品の小型ダイアトニック2023/02/28

イタリア製の小さなダイアトニックアコーディオンの調律を承りました。


届いた楽器はベースボタンが2つしかない小型のダイアトニックでした。
個人輸入で新品で購入した物という事です。
全く知らないメーカーで、昨年で創業140年らしく、これはその記念モデルのようです。
イタリアには小さなダイアトニックが各地の集落のお祭りなどで使われ、
小さなメーカーも沢山あるのでしょう。


分解前に音を鳴らしてみましたが、MMのずらしが多過ぎる事を考慮しても
全体の調律ズレが大き過ぎるという感じでした。
新品なのに調律を行うという時点で予想はしていましたが。
中を開けると、やっぱりというか、直付けリードです。
小型のダイアトニックではよくある構造ですが、リードが本体から外れないので
調律などのメンテナンスがとても大変になります。


新品とは思えない感じで多くのリードバルブに反りが出ています。


左上のリードバルブは斜めに付いていて、リードにぶつかっています。
これはかなり手を入れないと調律に進めそうにありません。


リードバルブにロウが付着して半分しか開かない所も。


新品ではよくある事ですが、製造時の加工屑が隅に溜まっています。
演奏すると飛散してリードに挟まって音が止まる原因になります。
当店では新品楽器は内部の掃除を行い、加工屑の飛散を抑えていますが
それでも、新品には音が止まるリスクがあります。


小さな楽器なので、そんなに沢山のリードはありませんが、また問題を見つけました。
リードバルブの上下が逆になっています。
表裏が逆というのは時々ありますが、上下が逆は珍しいです。


リードの隙間の調整もバラバラで、発音開始にバラつきがあります。


発音不良のリードを取り外しましたが、内側のリードバルブが傾いており
リードの固定で流れたロウが付いて開きが悪くなっていました。


この楽器は小さいですがMMLで、Lリードだけはリードの木枠が外せます。
Lリードにはストップ栓が付いていて、開閉ができますが
開閉するシャッターの調整が悪く、閉じるポジションでも僅かに隙間があります。
Lリードなのでこの程度の隙間で音は鳴りませんが空気漏れが生じます。
蛇腹容積が少ない小さな楽器では空気漏れの影響が大きく出ます。


リードを留めているロウの施工忘れもありました。


全てのリードの問題を取り除きました。
これでやっと調律へ進めます。


リードをよく見ると、高級品のBINCIでした。
140年記念モデルだから奮発したのでしょう。
ですが、作りが悪すぎてリードの良さが活かせていません。


あまりにも調律が酷いので、測定してみました。
MMLのうち、調律をずらしていないMとLをプロットしました。
ダイアトニックなので鳴らない(リードが存在しない)音程もあります。
この楽器はイタリア作成され、恐らく何も指定していないので
A=440Hzになっていると思いましたが、実際には全体がかなり低くなっています。
しかも音のズレが目立つ高音域にかけてズレが大きくなっています。
音がとても気持ち悪く聴こえたのはこれが原因でしょう。
単に低音にズレているだけではなく、バラつきも大きく、中国製の楽器のようです。


この状態を目指して調律を行います。
意図的に高くずらしてある方のMも、このタイプの楽器にふさわしい
多めのズレで作る速いビートを考慮しながら綺麗に整えて行きます。


調律が完了し、最終チェックでボタン操作に違和感があるので点検しました。
矢印の所のバルブが接触していましたので、修正しました。


全ての作業が完了しました。
これで楽器の能力100%で使って行けると思います。
それにしても、この感じの作りでこの先も大丈夫なのか心配になります。


MORESCHI入荷2023/02/17

先日、イタリアからボタン式が入荷したところですが、
今日は鍵盤式が届きました。

イタリアの操業100年を超える老舗、MORESCHIの鍵盤式です。
昨年末にもダブルチャンバーが入荷しています。


41鍵盤、HMML、120ベースです。(チャンバーは無し)
一般的なセルロイドの黒です。
鍵盤はパール仕様。


ベースレジスターは7個。
蛇腹の中は赤です。


リードはハンドメイドタイプです。
MORESCHIはリードメーカーのvoci armoniche がグループ会社です。
リードの調達費用が安く済みますので、
同じ価格帯の同じ音域の他社楽器より、グレードの高いリードが入っています。
ブランドと見た目と価格だけで楽器を選ぶべきではありません。
楽器なので最後は音と操作感が重要です。


重さは実測で10.6kgです。
41鍵盤、HMMLとしては軽い方と思います。