ダメージ仕上げ ― 2023/05/23
イタリアから新しい楽器が届きました。
お客様からのリクエストで発注していたBELTUNAのボタン式ですが、
デザインがとても個性的な物です。
ボタン式、右39音、MML、96ベースという小型の楽器です。
外観は特別な塗装がしてある仕様で、意図的に傷のような加工がしてある
ダメージ仕上げ?というようなものです。
この塗装はそれなりに費用が掛かりますが、これが欲しいというご希望により、
発注する事になりました。
全体にはメタリック感の強いシルバーですが、傷のようなダメージ加工と
要所に黒のぼかしが入っています。
トップ層は艶消しのクリア塗装になっており、かなり手が掛かっていると思います。
ボタン部分には塗装や加工はしてありませんが、
スイッチ部分はボディーと同じ塗装がしてあり、一体感があります。
ベース側もボディーはダメージ塗装仕上げです。
2つあるスイッチも傷のような加工がしてありますが、
不思議な事に表面を触ってみても全く傷を感じません。
蛇腹にはダメージ加工的な事はしておらず、
黒に白のグラデーション塗装と小さな装飾があります。
蛇腹までダメージ加工をすると単に朽ちた楽器になってしまうという事でしょうか?
この辺りのバランスが絶妙なデザインです。
楽器を演奏する状態で持った時の上になる部分ですが、傷がしっかり入っています。
でも、触ってみるとツルツルした表面で傷を感じません。
見た目と感触が違うのでとても不思議。
蛇腹留めの金具がピカピカ過ぎるので、ダメージ加工したくなります。
何となく重たく見えるデザインなので重いのか?と思いましたが
重さは僅か7.8kgでした。
39音、MML、96ベースの音域がある楽器としては軽量です。
この楽器は購入する事が決まって発注した物なので、すぐに整備に入ります。
新品なのでリードバルブの反りなどは皆無ですね。
リードの木枠の加工も美しいです。
あたり前ですが、内部はダメージ加工されていません。
リードはハンドメイドタイプです。
小さい楽器ですが高級志向です。
あまり見ない赤い色のリードバルブですが、
端の部分を丁寧に切り取って貼り付けています。
どんな高級機や有名メーカーの新品楽器でも、人が手作りしている事と、
大変な量の部品が使われているので必ずエラーがあります。
上の矢印部分は接着が悪く、リードバルブの端が浮いています。
この状態は音に影響するので修正します。
同じような不具合が幾つかありました。
見つけたものは全て修正します。
こちらは木枠の内側のリードバルブですが、
長過ぎて先端が木枠の天井に当たっているので完全に閉じていません。
これも音に影響が出るので修正します。
木枠の内側のリードも丹念に観察して問題を潰します。
問題のあるリードバルブは取り外して付け直します。
必要があれば部品交換することもあります。
このメーカーの物はリードの調整はきちんとしてあり、修正は最小限でした。
発音への影響が大きい部分ですが、きちんとできていないメーカーが多くあります。
有名ブランドでもダメなのが普通です。
著名な奏者の楽器は使う前にきちんと調整しているので問題なしですが、
同じブランドだから信頼性があるという事はありません。
新品楽器でも最低限、弱い音の発音、調律のズレ、空気漏れはチェックが必要です。
調整が不十分であれば、この3項目に影響が出ます。
木枠の位置が穴の位置と完全に一致しないので削って修正します。
これは試奏では気づけないですし、実際、修正した効果は不明です。
ですが、当店で販売する楽器は可能な限り、完全な状態にしています。
ベースリードを取り外したところですが、音の切り替えで開閉するシャッターの
停止位置に微妙なズレがあり、僅かですが全開になっていません。
これも実際の演奏で問題が出るレベルとは思えませんが、
必ず全開になるように調整しています。
調整後の画像です。
空気が出入りする穴の面積は最大となります。
問題がなくてもベースの底板を外してチェックします。
殆どの場合、問題はありませんが、よくあるのは加工屑が残っている事があります。
演奏で吸い込まれてリードに挟まると音が出なくなるので、
全ての楽器で点検、清掃を行います。
ベースの手を通すバンドが日本人には緩すぎる事があるので
必要があれば切り詰めます。
この楽器は問題なしでした。
ベースの底板を外した裏面です。
近年の楽器ではアルミニウムや樹脂の楽器が殆どですが、
この楽器は木製で綺麗な曲げ加工がしてあり驚きました。
ここはメーカーの拘りでしょうか?
塗装が垂れていますが裏面なので何も問題ありません。
塗装の指示が書き込んでありますね。
楽器の内外を点検、修正し、最後に全体の調律を行ってお渡しとなります。
その際、MMの波の速さをお客様のお好みに合わせます。
ただ、楽器を輸入して販売しているという訳ではなく、
専門店としての基準で修正、調整を行っています。
これは開業以来守っている事です。
小型ボタン式入荷 ― 2023/04/26
イタリアから小型軽量なボタン式アコーディオンが届きました。
先日は鍵盤式が入荷しましたが、今年に入ってポツポツと入ってきている
老舗メーカーのMORESCHIです。
小型軽量なボタン式です。
それでも、右は37音、ベースは96ありますので、
丁度、中型サイズの鍵盤式と同じ音域があります。
殆ど場合、この音域があれば不自由なく色々な事ができます。
右手側、37音のMMLです。
スイッチは鍵盤式のように表側にあります。
フレンチタイプのボタン式は背面にあります。
フレンチタイプの小型な機種は、右46音、MM、80ベースという仕様が多いですが、
音域が37音に減ってもMMLの方が幅広く使えるので
ミュゼットやシャンソンがメインでない場合は、こちらの方がお勧めです。
ベースは96あるので、足らないという事は殆どありません。
80ベースではないので、dimも独立したボタンがあります。
スイッチがあるので2種類の音が選択できます。
これも小型フレンチタイプには無い場合が多い機能です。
重さは実測8.0kgです。
これは34鍵盤並みの重さです。
ボタン式の場合、鍵盤の中型の音域があり、
重さは鍵盤の小型と同じ程度という事になります。
同じメーカーの同じ音域の鍵盤式と並べてみました。
演奏時の向きで、縦方向の長さの違いがある事が分かります。
この方が分かりやすいでしょうか?
ボタン式と鍵盤式では、同じ37音でもこれだけの違いがあります。
厚さ方向は鍵盤式と同じです。
フレンチタイプの物はリードの並べ方が違うので、
縦はとても短くなりますが、厚さは鍵盤式より厚くなります。
この楽器はフレンチボタンではないので、厚さは鍵盤式と同じです。
鍵盤式の37音、MMLの重さは、実測8.8kgでした。
同じ仕様の楽器の重さは8.5~9.5kg程度ですので、
この楽器も鍵盤式としては頑張っている方です。
それでもボタン式と800gの差があります。
小型、軽量である事を重視するなら、ボタン式という選択が有効です。
ただ、鍵盤式には良い点が沢山あるので、
盲目的にボタン式を選択する事はお勧めしません。
詳細な理由を知りたい方はお問い合わせください。
MORESCHI入荷 ― 2023/04/05
イタリアのMORESCHIというメーカーから新しい楽器が届きました。
モレスキと発音しますが、創業100年を超える老舗メーカーです。
2月に41鍵盤HMMLの黒が入荷しましたが、
今回は37鍵盤MMLの白です。
音域と扱いやすさのバランスが良い中型サイズです。
MMLとすることで、重さ、価格を抑えています。
Hリードは万人に必要ではありません。
セルロイドの白ボディーと馴染みの良いパール鍵盤です。
鍵盤幅は演奏しやすい標準幅です。
細い鍵盤の物は指の幅と同じ位になるので、
少しのズレで隣の鍵盤に触れて意図しない音が鳴り、お勧めしません。
複数楽器がある場合も持ち替えた時に違和感が出ます。
96ベースで、音の切り替えは3つあります。
蛇腹の内側は赤です。
このクラスとしては立派な胸当てが付いてきます。
中型サイズでMMLの楽器は普及機としての楽器が多いので
一般的には標準リードの物が多いですが、
この楽器にはハンドメイドタイプが使われています。
MORESCHIはリードメーカーがグループ会社にあるので
良いリードを安く入れる事ができます。
現在のアコーディオンメーカーは自社でリードを作っているので
どのメーカーもリードメーカーからリードを買っています。
重さは実測で9.0kgと、軽量です。
アコーディオンの重さは、カタログ値やメーカー発表値は誤差が大きく、
殆どの場合、実際には重くなっています。
カタログの値が軽い事で楽器を選定すると失敗します。
真相が気になる方は自分の楽器を計測してみてください。
落胆する事が多いでしょう。
Faubourg 36 ― 2023/03/29
フランス Maugein から新しい楽器が届きました。
この楽器は在庫ではなく、お客様のオーダー品です。
49音、MM、80ベースの楽器です。
小型軽量な楽器ですが、リードはハンドメイドです。
ボタンはミラータイプ、メッキグリルで蛇腹は敢えての黒です。
蛇腹の内側は、色はもとより、様々な柄を選ぶ事もできます。(費用は変わりません)
ボディー色は、真っ赤ではなく、ワインレッドという感じの深みのある赤です。
この色は、あるフランス映画に出てくるアコーディオンと同じ色になっています。
アコーディオンが出てくる、あるフランス映画とは、「Faubourg36」という映画です。
この映画で使われている楽器はMaugeinが、この映画の為に作成した物で、
映画の舞台となる時代に合わせたデザインの楽器となっています。
上の画像の楽器は鍵盤式のFaubourg36モデルですが、
映画ではボタン式が使われています。
どちらもオーダーで作成可能ですが、今回は費用と重さを抑えるために
レトロタイプのボディー形状と、装飾は省き、色とグリルのみ同じに作りました。
映画 「Faubourg36」は、日本でも「幸せはシャンソニア劇場から」という
タイトルで公開されています。
公開は2009年で、公式サイトは既に無いようです。
下記サイトで情報が見られます。
DVDが発売されているようです。(上の画像はDVDのパッケージです)
また、Amazon Prime Video で見る事ができるようです。
この映画、2009年(monte accordion開業の年)に見に行っています。
名古屋の名演小劇場という小さな映画館に行きましたが、
その時のブログ記事がありました。
そして、シャンソニア劇場ではありませんが、
今年、名演小劇場が閉鎖となってしまいました。
シャンソニア劇場のように復活するでしょうか..
アコーディオンの話に戻ります。
右手の音域は49音あります。
小型に見えても音域が多いのはボタン式の良いところです。
リードは勿論、釘留めで、ハンドメイドリードを使っています。
ボタンは映画と同じ、ミラータイプの物です。
グリルカバーも映画と同じデザインのメッキタイプです。
Maugeinのロゴは最近、新しくなった現行のロゴです。
色は映画と同じように白です。
実は、Maugeinはグリルカバーのデザインと、メーカーロゴを新しくしていて、
現在は上の画像のようなものになっています。
これはこれで良いと思いますが、以前のデザインはとても良くて捨て難いです。
現在、新しいデザインに切り替わっているので、基本的に旧デザインはできません。
これは以前入荷した物なのでグリルもロゴも旧タイプです。
蛇腹は映画と同じ、黒です。
Maugeinはアコーディオンメーカーとしては異例の、蛇腹内製をしています。
なので、色を変えたり、柄を入れたりしても価格に影響しません。
蛇腹を空気漏れなく、長年使えるように作るのは独自のノウハウと
それを作成する技術が必要です。
なので、殆どのアコーディオンメーカーは蛇腹を外注で、
蛇腹だけを作っているメーカーで作成しています。
その方が、コストをかけずに確実な物が使えるからです。
当店でも蛇腹が修復不能な場合はイタリアのメーカーで作成しています。
ベースボタンは80ベースです。
96ベースと同じ音域があるので困る事は殆どありません。
勿論、dimの和音も出ます。
80ベースはdimが出ないと思っている方もいると思いますが、そんな事はありません。
フレンチタイプのアコーディオンのベースは、96や120ベースでも
3列ベース、3列和音(maj,min,7th)が一般的なので、dimのボタンはありません。
ですが、dimは出す事ができますので、80ベースでも同じように可能です。
コンパクトな楽器ですので、軽量にできています。
実測7.2kgは34鍵盤60ベースより軽量です。
MORESCHI入荷 ― 2023/02/17
先日、イタリアからボタン式が入荷したところですが、
今日は鍵盤式が届きました。
イタリアの操業100年を超える老舗、MORESCHIの鍵盤式です。
昨年末にもダブルチャンバーが入荷しています。
41鍵盤、HMML、120ベースです。(チャンバーは無し)
一般的なセルロイドの黒です。
鍵盤はパール仕様。
ベースレジスターは7個。
蛇腹の中は赤です。
リードはハンドメイドタイプです。
MORESCHIはリードメーカーのvoci armoniche がグループ会社です。
リードの調達費用が安く済みますので、
同じ価格帯の同じ音域の他社楽器より、グレードの高いリードが入っています。
ブランドと見た目と価格だけで楽器を選ぶべきではありません。
楽器なので最後は音と操作感が重要です。
重さは実測で10.6kgです。
41鍵盤、HMMLとしては軽い方と思います。
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