定期点検のススメ2011/05/17

調律を含めたアコーディオンの点検のご依頼を承りました。
楽器は古いHOHNER製の物でアコーディオン専門店で中古委託品で入手した物です。
製造からは30年以上経っていると思います。


サブタは天然皮革ではなく樹脂製の物です。
この楽器の場合、反りは比較的すくないですが、中には写真の様に折れ曲がった
状態の物や反りが出た物がありました。
樹脂のサブタは、短期間で反りが酷くなる物と、長期でも皮製より反りが出ない
物もあり、一概に樹脂だから..と言えない部分があります。

ロウの接着が割れてリードが浮いているところがありました。
高温の場所に置かれたか、強い衝撃が加わったのかわかりませんが、
アコーディオンに高温と衝撃は厳禁です。

リードの裏面に錆が出ている箇所が半数ほどありました。
これは問題が大きいです。
本来ならリードを外して錆びを落とすところですが、費用がかかり過ぎるので
リードは外さないでできる限りの錆を落とす方法で対処しました。
その方法は長期的な事を考えるとあまりお勧めできません。
重要なのは錆を作らない事と、中古の場合は錆の無い楽器を選ぶ事です。
新品でも長期、ハードケース内で保存されていた古い在庫などは錆を疑う
必要があると思います。
日本の気候はヨーロッパと違いますし、イタリアの製造元でも注文が入るまでは
楽器にリードは取り付けません。
販売店で不必要に多量の在庫を置かないのは錆やカビ防止の為です。

こちらはベースリードですが、激しくサブタが反って対面のリードに引っかかっている
状態です。どうやったらこうなるのでしょうか..

と、色々な細かい不具合が見つかりました。
もちろん、ここに挙げていない細かい不具合は他にもありました。
これらの不具合を修正した後、調律を行いました。
実は調律でも問題がありました。
年月なりの調律ズレはもちろんですし、錆を落としているので調律はバラバラです。
ですが、それ以上の問題は、この楽器がA=440Hzで調整されていた事です。

日本ではピアノの調律は普通、A=442Hzで行われています。
なので、現在、日本に輸入されるアコーディオンは普通A=442Hzで調整されてきます。
ピアノやアコーディオンのように、その場で簡単に調律が変えられない楽器は調律の
基準の違いは大きな問題となります。
アコーディオンソロで弾く場合は問題ありません。
他の楽器と合奏する場合に問題となります。
この楽器の場合、古い楽器ですのでA=440Hzで調律して輸入された可能性も
ありますし、誰かが中古楽器を海外のオークションなどで輸入した可能性もあります。
現在でもA=440Hzが標準となる国も多いので、個人で海外から輸入した場合は
440Hzの場合があります。

この楽器は、中古委託品で専門店から調律済みという事で購入したと思われますが、
委託品は売れるまでは出品者の物なので、お金をかけて整備する事は普通ありません。
アコーディオンの調律で全体を大きく動かす440Hz→442Hzは面倒な作業ですので、
中古委託品の場合は440Hzであればそれを基準にずれた部分だけを調律して
中古委託品として棚に並べるのが一般的でしょう。
手間隙かけて442Hzに調律しても、出品者が引き上げれば店は「まる損」ですから。
これは調律だけではなく、委託品の楽器の整備全般に言える事だと思います。
中古委託品を買う場合は、整備の内容をきちんと聞く事が重要でしょう。

話が逸れましたが、調律は442Hzでやりなおし、整備完了。
最後にベルトを元通りに戻して試し弾きをしてみます。
問題無く良く鳴ります。調律直後は気持ち良いです。
でも、ちょっと気になる事が..

この楽器の依頼者は私より小柄な方です。
なのに、元々付いてきたベルトを最初の状態のセッティングで私が弾いた場合、
ベルトはきつくて弾き難くないと変です。
でも、さほどベルトはきつくありません。
多分、一番きつく調整してもまだ緩いのだろうと思い、ベルトの穴をギリギリまで
余分に空けてあげようと思い、ベルトを見ると、既に自分で穴が空けてあり、
ギリギリまで詰めてありました。
なのに私が担いでもきつくない??
よーく見ると、ベルトが左右逆になっていました。長い方が左になっていたのです。
これではベストポジションで弾く事は無理です。
今までそれを知らずに我慢して弾いていたのでしょう。
左右を入れ替えベルトを再調整して問題解決しました。

後日、楽器を使った感想を他人経由で聞きましたが、大変良いとの事でした。
色々な不具合や、調律の問題、思わぬ間違いなどが全て修正された楽器は
今までとはまるで違うと思います。
調律も兼ねて、点検、整備を定期的に行う事をお勧めいたします。

コメント

_ SilverAge ― 2011/07/05 20:48

こんばんは~
天然皮革ではなく樹脂製のサブタは、30年以上も前から使われはじめていたんですね。勝手に10年、15年の程度のことだと思っていました。私も樹脂製のサブタで新品に近いはずなのに相当反っているのを見たことがあります。天然革でも、使用する革の部位などの違いで、相当反りに差がでるように思いますが。

リード錆のことですが、リードをブロックから外して丁寧に落としたとして、以後は湿気に対するケアをしていくことで、錆がなかったリードと、長期的にそう遜色ない経過をたどることは可能と思っていいものでしょうか。一度錆がでたらもう駄目ってことはないですよね。(願望!)
それにしても、アコを手にして初めての梅雨経験で室内の湿度が高いことが心配でなりません。取り敢えず過去に管理人さまが記しておられた梅雨対策を実践中です。(汗!)

_ Cookie(店主) ― 2011/07/07 16:56

SilverAge様、こんにちは。
コメントの書き込み、ありがとうございます。

30~40年前からの古い樹脂製のサブタはHOHNER製の物に使われています。イタリア製の物では樹脂製を使う様になったのは20年前頃からではないでしょうか。正確な特定はできていませんが、大体そんな感じだと思います。
環境問題を早くから意識しているドイツだからなのか、ばらつきの無い樹脂製で安定した性能や個体差の少ない製品を目指したのか、コスト低減を図ったのか、その辺りの理由は分かりませんが、樹脂を使う理由は大体そんなところでしょう。
ただ、合成樹脂でも製造時のバラつきがあるようで、長年反らない物と、酷く反りや変形している物の二通りを見ます。
現在でも樹脂と天然皮のサブタはメーカーや機種により混在しており、それぞれの特徴を考えてメーカーの判断で選んでいるようです。

一旦錆びたリードで完全に錆を落とした物と、元々錆びの無いリードで、錆び易さに違いがあるかどうか?という疑問ですが、これは同一条件で錆びの出方を見る試験をした事が無いので実際のところは分かりません。
金属材料として考えた場合、新品のリードのように表面を削って仕上げた物と、錆たリードの表面を削って仕上げた物では同等の筈ですので差があるとは思えません。
但し、これは完全に錆を落とした場合という条件が付きます。この部分が非常に重要でリードを外さずに錆を完全に落とす事は不可能なので錆びたリードを完全に復活させるにはブロックから外して研磨する必要があります。
そうした作業は大変な手間と時間がかかります。大幅に調律も狂いますので更に手間と時間がかかります。それは修理費用に反映しますので、錆を出さない事が大変重要となります。

金属一般によく言われる事で、表面に均一な酸化膜があるとそれ以上酸化が進まずに錆びにくいという説があります。これは実際本当の事ですが、リードの場合は何故か該当しません。リードの表面は研磨して銀色になっている面と、酸化膜がついたブルーの面がありますが、錆びが出るのは大抵、酸化膜のあるブルーの面です。これは、ブルーの面はリードの内側に向いていて木に囲まれた狭い環境にある為に湿気が篭り易い為かも知れませんが、真相は不明です。

という事で、一度錆が出たら駄目という事はありませんが、新品並みに錆を出にくくする為には完全な錆び除去が必要になり、相当の費用がかかるという事です。元々安い楽器の場合は修理するより買った方が良いという事にもなります。

ただ、アコーディオンのリードは非常に錆びやすい合金ではありませんので、過度に心配する事はありません。できるだけ弾いて空気を通し、リードを振動させてやる事が錆び防止に役立ちます。弾けば腕前も上がるので一石二鳥です。良くないのはケースにしまって弾かずに長く置いておく事です。その上、湿度が高い環境であれば尚よくありません。風通しの良い環境であれば使わない時もケースに入れずに出しておいた方が錆びは出にくいです。但し、塩害が心配される環境では出しておかない方がいいでしょう。海が近い環境の方は少し注意が必要かと思います。

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