手術開始2012/04/29

3月末にブログで紹介させて頂いた60年程前のアコーディオンの修復に取り掛かります。
こちらは、受け取った時の記事です。
http://accordion.asablo.jp/blog/2012/03/31/6474806



70年以上前のHOHNERの再生を行ったり、調律が入ったりして
開始が遅れてしまいましたが、今日から手術開始です。

改めて楽器を確認してみると、グリルの変形がまず目にとまります。
スイッチも少ししか出ていないのでグリルは全体に変形しています。


どこから手をつけようか考えましたが、取り敢えず、不要な物を外す事にしました。
グリルの裏に取り付けてある内蔵マイクを撤去します。
部品の感じからすると60年前という感じはありませんので、
後に取り付けられた物と思います。
それでも40年程度前でしょうか。
子供の時に分解したラジオやテレビの部品に近い物です。
マイクは薄いので、カーボンマイクかクリスタルマイクでしょう。
今は殆ど使われていない方式です。


グリルから外した部品です。
マイクアンプ無しの内蔵マイクなので、ノイズがかなり載っていたと思います。
ついでにグリルに張ってあるネットも剥がし、変形も少し修正しました。


別に必要ない事ですが、マイクを分解しました。
これは私の性分です。
小学校の時からの癖で、電気や機械の製品を見ると、とことん分解したくなります。
マイクの中は、アルミニウムの薄い振動板の下に四角い薄い物がありました。
圧電効果のある薄い結晶です。
予想通り、クリスタルマイクでした。
こんなのを見たのは小学校の時にクリスタルイヤフォンを分解した時以来です。


マイクを外した後は取り敢えず、中を開けて右側、蛇腹、ベース側と3分割しました。
皮製の蛇腹パッキンは寿命ですので、剥がして新しい物に張り替えました。


鍵盤のストロークを測ると8~9ミリと非常に深くなっています。
鍵盤の高さ自体も不揃いです。
不揃いなのはバルブのフェルトや皮の収縮による物ですが、このストロークの深さは
フェルトや皮の収縮だけでは無さそうです。


ボディーから突き出た鍵盤部の付け根にはヒビが入っています。


胸当てを外してみると、鍵盤部のヒビは裏面までまわっていました。
よく見ると、ヒビは途中から段差となっています。
ヒビが入っているのはセルロイドのある黒い部分で、内部の木の部分は
最初から切れている事がわかりました。
2ピース構造になっていて、それを留めているネジの緩みと接着の剥がれで
鍵盤部全体が僅かに動くほどガタが出ているという事がわかりました。
鍵盤の異常な深さはこの為に起きていました。
鍵盤が深くなったのではなくて、周囲の木枠が鍵盤から離れていたという事です。


胸当ての下に隠れていたマスタースイッチを外しました。
手のひらで押す、パームスイッチですね。
裏側には埃が溜まっていました。
60年分でしょうか。


鍵盤の奥には埃玉もありました。
埃玉については下記をご覧ください。
http://accordion.asablo.jp/blog/2012/04/13/6493501

鍵盤を全て取り外しました。
凄い埃の量です。
鍵盤の下にはポリエチレンの発泡体のシートが入れられており、
「三木」という文字がマジックで書かれています。
以前の持ち主のサインか、使った廃品のポリエチレンシートに
偶々書かれていた物でしょうか?


ポリエチレン発泡体の厚さは3ミリ程度です。
鍵盤の深さが深すぎるので途中で止まる様に下に入れたようです。
だとすると、2ピース部分の分離は相当以前からあったのかも知れません。
それに気づかないで、取り敢えず、深さを少なくする為にスペーサーとして
ポリエチレン発泡体を入れたものと思われます。
ですが、これでは鍵盤を押した後の感触がグニャグニャです。
また、ポリエチレンは難接着材料ですので、普通の接着剤では付かず、
写真の様に剥がれてシートがずれてしまっています。
シートの鍵盤が当たる部分のヘタリ具合や、埃の積もり具合からみて
かなり以前からこの対策をして使っていたと思います。



ポリエチレン発泡体を剥がすと、今度は合板の薄い板が出てきました。
厚さ2,3ミリのベニヤ板です。
しかも、一本物ではなくて、分割されています。


合板も綺麗に剥がしました。
高級アコーディオンにベニヤ板は無いでしょうから、これも後で入れた物と思います。
仮に、ベニヤを最初から使っていたとしても、こんな風に分割では使わないでしょう。
なので、後から鍵盤の深さを修正する為に入れられたのだと思います。
本来、鍵盤の下の部分が当たり、鍵盤のストッパーと消音の為に入れられている
フェルトも寿命なので剥がしました。(画像中の黒い細長い物です)
本当はこれに鍵盤が当たって止まる様になっています。
鍵盤のバルブのフェルトや皮の収縮で鍵盤が深くなってしまった楽器で、
この部分のフェルトを厚くして修理されている事が時々ありますが、
完全な手抜き修理です。
そういう楽器は買ってはいけませんし、そういう店は信用してはいけません。


驚いた事に、鍵盤側にもスペーサーが入れられていました。
白鍵の下には皮が1,2枚、黒鍵の裏にはフェルトとポリエチレン発泡体が
貼り付けてあります。
黒鍵の裏のフェルトは元からあった物かも知れませんが、その他は本来
付いていないものです。

取り敢えず、今日は後付けの不要物を取り外し、埃を綺麗に取り除いて終わりました。
60年経過というだけで行う事は多いですが、間違った修理や改造がしてあると、
修復作業が大変になります。
これはちょっと手強そうです。(と、言いつつ楽しんでいますが..)

コメント

_ SilverAge ― 2012/07/14 08:31

一番下の写真で、白黒鍵の左右ブレ止めガイドプレートの摺動部分に、黒い汚れが見えますが、何でしょう。潤滑剤の跡のような感じもありますが、普通ここに潤滑剤は使わないものだと何かで教わりましたが。
それから、その受け側の溝付きの木材は、摺動部だけ堅い材をサンドイッチにしているのでしょうか。金属ではないようですが。
このような画像を見せていただき、勉強になります。ありがとうございます。

_ Cookie(店主) ― 2012/07/14 23:26

SilverAge様、こんにちは。
コメントの書き込み、ありがとうございます。

鍵盤の下部後端のアルミニウムの部分ですが、恐らく、グリスの様な油脂が付いている感じでした。
実際、鍵盤関係の部分で油脂類は使いませんので、動きが悪くなった時に処置したのだと思います。
一時的には良くなるかも知れませんが後に悪影響が出ます。

ネット上では個人(時に商売している人も..)がアコーディオンの修理をしました!というものを見ますが、症状が改善しただけで修理とは呼べません。
処置後に継続して問題が出ない方法で修理しないとプロの世界では通用しませんので。
4Bの鉛筆を使って何かの躍動部分が修理できた..とか、ネット上で見た記憶がありますが、効果は長く続きませんので、修理ではなく応急処置ですね。
きちんとした修理は時間と費用がかかるものです。
アコーディオンは他の楽器と比較して、かなり多くの部品点数で作られています。
細かい部品の集合体であるアコーディオンは作るのも、修理するのも大変です。
値段が高いのはアコーディオンの宿命ですね。
修復は新品を作るより更に大変です。
部品の取り外しをした上で、清掃や一部交換が必要になりますので。

話が逸れましたが..
鍵盤の受け側の木の方ですが、ご推測の通り、鍵盤と接触する部分だけが硬い木でできています。
全部、硬い木で作ると、お金が掛かる、加工が大変、重くなる、ダメになった時に全て交換になる..というマイナス面があるので、
接触する一部だけを硬い木で行い簡単に磨り減ってしまわない様にしているものと思われます。
接触面積を減らして摩擦を低減する意味もありますし、そういう構造の物は一体加工するより、2ピースで作る方が簡単というのもあるでしょう。
最近の楽器ですと、この部分に摩擦係数の低い樹脂が使ってある物もあります。(多分、高密度ポリエチレン)

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