ロウのお話し2014/08/16

ロウというのは、蝋の事です。
ロウソクのロウの意味です。
英語だとWAXとなるようですが、何となくイメージが一致しませんね..


アコーディオンの発音体であるリードは溶かした蝋で木枠に接着されています。
一部の楽器では蝋を使わず、釘で留めている物もあります。


古い楽器の調律を承りましたが、蝋の状態が悪くヒビ割れがありました。
一旦、リードを取り外してみましたが、蝋の部分は脆くなっていて、
細かく割れるように破壊しました。

使われている蝋は天然の蜜蝋に添加物を混ぜている物と思われますが、
メーカーや年代などで色々な物が使われていると思います。
きちんとしたメーカーの楽器でも劣化する年月に差が出ます。
製造後、最低でも20年以上経過して初めてその蝋の組成が
良かったのか悪かったのか判断できる事で、
その時点では判断が難しいからです。
老舗メーカーには経験がありますので、それなりに
大丈夫と思う蝋を作っていると思います。
ですが、材料は天然の物ですので場合によっては劣化が早まります。

そんな難しい蝋の調整ですが、ネットで自分で作製する様な事を
書いている人がいるのを見た事があり、ちょっと驚きです。
そういう物は自分の楽器でだけで使って欲しいものです。
そういえば、ロウソクの蝋と思われる白くて粘りの無い蝋で
修復してある楽器を見た事を思い出しました..


これは私が使っている新しい蝋です。
勿論、自分で作ってはいません。
冷えて固まっていますが、金属の硬いヘラなどを刺して強引に持ち上げても
割れる事はなく、ツノが残るように伸びます。
古い蝋では粘りがないので割れます。

先ほどの楽器と同じですが、この部分は蝋の修復を受けた部分と思います。
やはり、以前から蝋の劣化があったのでしょう。
修復と言ってもコテで再加熱しただけで、仕上げもかなり酷いです。
古くなった蝋は再加熱しても流動性が悪いので綺麗に流れません。
また、再加熱では一時的に問題が消えてもすぐに問題が出るでしょう。

年月が経過した蝋は劣化が進んでいるので、最終的には
全て取り去って新しく施工するしかありません。
どの程度の経年で問題が出るのかは難しいところです。
20年程度で問題が出る楽器もあれば、50年経っても
取り敢えず問題が出ていない場合もあります。
大体、40年過ぎたあたりから注意が必要と思います。

古い中古のアコーディオンは外観がどんなに綺麗で、
きちんと演奏できるとしても、蝋の劣化問題がいつ表に出るか分かりません。
通常、蝋留めを再施工して販売している中古は無いでしょう。
何故なら大変時間と手間のかかる作業となりますので、
中古なのに価格が上がってしまうからです。
中古を買う人の大半の理由は価格ですので、高ければ売れません。
なので、見える問題のみ修正して販売するという事になるのでしょう。
見える問題すら修復していない物もありますが..

アコーディオンには、蝋に限らず、フェルト、皮(革)、接着剤など、
経年劣化する部材が多く使われています。
古い楽器は常にリスクがあるという事です。
当店の中古楽器は、その楽器に必要と考えられる項目は修復しています。
例えそれが時間の掛かる大変な作業であっても必要があれば行います。
その上で、古い楽器でも新品と同じ、1年の保障を付けています。
価格が安いとか保障期間が短い物は販売者の免責から来るものでしょう。
オークションのノークレーム、ノーリターンは問題外です。

蝋の劣化の進行は、先述した原料や組成による部分もありますが、
使用環境にも影響されます。
高温に長く置かれた楽器は蝋の劣化が進行します。
蝋が溶ける温度に達していない40~50℃でも、揮発成分が抜けて行きます。
自分の楽器の劣化を少しでも先にしたいのであれば低温を保つ事です。
人が快適と思う環境に置いていれば間違いありません。

2種混合、リードの錆。2014/08/20

古い小さなアコーディオンの修理をしています。
http://accordion.asablo.jp/blog/2014/08/09/7555230
その楽器の鳴らない音があるのでリードを点検しました。


鳴らない箇所のリードです。
樹脂製のサブタ(リードバルブ)を外すと錆がありました。



リードを外した木枠側ですが、ロウ接着の施工で失敗し、
溶けたロウが木枠の中に少し入っています。
問題になる程では無さそうです。
木枠の内側の中心付近には線状に凸になった加工不良もあります。
これはサブタが引っ掛かる原因になる可能性があります。


リードを木枠から取り外して、錆が出ている裏側を表に出してみました。
リードの材料である鉄の合金では赤い錆が出ていて、アルミニウム合金の
フレームには白い錆が出ています。
鉄の酸化物や水酸化物は褐色で、アルミニウムの場合は白色なので
こんな風になっています。


リードの先端をピンセットで押してみましたが、錆が強固で
錆を支点としてリードがたわんでいます。
通常はリベット留めの根元を支点として、全体がフレームの下に入ります。

2種類の金属錆がブリッジしている状態ですが、細かい水滴が入ったのか、
寒暖で内部が結露して異種金属接触腐食を起こしたのかも知れません。
異種金属間に水が付くと電池の状態になり腐食が進みます。

いずれにしても、これは綺麗に取り去って自由に動けるようにする必要があります。
大きく調律がずれますので調律も必須となります。


100円 油鰯2014/08/23

100円ショップでオイルサーディンが売っていたので買ってきました。



楕円缶でサイズも普通です。
「あけぼの」マークが入っています。
通常のオイルサーディンの缶詰は、大体200~300円なので
半額程度という事になります。



使われている油が米油というのはちょっと珍しいですね。
内容尾数という表示があります。
これもちょっと珍しい。
2~4尾とありますが、これは意外でした。
大抵の場合、小さな鰯が多数入っているますので。

販売はマルハニチロ食品ですが、製造所は固有記号で表示とされています。
消費期限下にあるのは、NGK352という記号です。
という訳で、調べてみると、岩手県盛岡市という事が分かりました。




缶を開けると大きな鰯が3尾。
まさに表示通りです。



軽くソテーして頂きました。
魚が大きく、内臓が残っているのがちょっと気になりました。
私は臓物系が不得意なので..
一般的な小さい鰯の場合は内臓のあたりまで上半身?が
切り落とされていますので。



古い楽器の修理2014/08/24

40~50年程度経過したアコーディオンの修理を承りました。



日本でポピュラーなEXCELSIORです。
アコーディオンは殆どの場合、製造年月日が書かれていませんので、
外観や部品の形状などを見て大体の年数を判断します。
この楽器の場合、スイッチの形状、メーカーロゴの形状、
全体の傷み具合で40~50年程度と思います。



内部のリードですが、貼り付けられているリードバルブは
この頃のイタリア製としては珍しく樹脂製です。
皮製の物より長持ちする場合もありますが、
逆に短期間で反りが大きくなる場合もあります。
以前の樹脂製は製造ロットやメーカーでバラツキが大きかったという事ですが、
最近の樹脂製の物は安定していると思います。
この楽器の場合は少し反りが出ていて、そろそろ交換時期というところです。



蛇腹と本体の合わせ目のシールは交換時期にきています。



あまり使っていなかったらしく、ベースのバンドは内側がとても綺麗です。
ですが、経年で硬くなっている為、交換する方が気持ちよく使えます。
硬化したバンドで演奏すると手の甲が痛くなりますので。



今回の修理の一番の目的はベースボタンの不具合です。
戻りが悪い箇所があり、全体に操作が重くなっています。
ベースの底板を外しましたが埃の進入も少なく見た目は問題なさそうです。
やはり、あまり使われていなかったのでしょう。
よく使われた楽器は空気が出入りする為、内部に埃が沢山入っています。



ベースボタンの隙間から見える交差する金属部品は
メッキの錆が出ていて艶がありません。
恐らく、これが原因と思います。



ベースボタンを全て外しました。
長い丸棒状態の部品の表面にはメッキがしてありますが、
錆びて灰色の艶消し状態になっています。
ボタンの操作に伴い回転する部品ですが隣り合う部品と接触していますので、
表面の錆が摩擦係数を上げて操作が重くなっています。




バルブから伸びる金属も同じように錆びています。
バルブ近辺は空気の出入りが近いので
部品表面にそれなりに埃が堆積しています。



ベースメカニックを分解しているところです。
結局、内部の部品が錆びていますので、更に分解して
一つずつ磨くしかなさそうです。

この状態で油脂類をスプレーするなどして修理する人もいるかも知れません。
その方法では一時的に良くなるかも知れませんが、
すぐに動きは悪くなり、かえって事態を悪化させます。
この手の修理で短期間ですぐに修理完了するような場合や、
修理費用が安い場合は要注意です。
古いアコーディオンの修理で、早い、安いは、お得ではありません。
オークションの中古楽器でも同じ方法で一時的に問題を消している事も
可能性としては考えておく必要があるでしょう。


古い楽器の修理22014/08/25

古いイタリアの有名メーカーのアコーディオンを修理しています。



ベースメカニックの金属パーツの錆により動きが悪くなっている状態の
修理をしていますが、結局、バルブまでバラす事になりました。



ベースメカニックを取り外したついでにベースストラップの交換をしましたが、
見た目が綺麗な元々付いていた物は劣化で硬化しているだけではなく、
金具部分に割れがある事も分かりました。
交換作業をしなければ気づかなかったかも知れません。



料理番組のように、一気に時間が飛びますが..
取り出したベースメカニックは全て元通りに戻し、
ベースストラップも新品に交換しました。



ベース部分の修理は完了しましたが、他にも幾つか修理項目があります。
鍵盤の先端が欠けてしまっています。
困った事に折れた先は残っていません。
修理は可能ですが、古い楽器では色が合わなくて
補修が目立ってしまう問題があります。



この楽器はバルブの皮を交換した痕跡があります。
フェルト部分も交換したのかは不明ですが、貼り付けてある皮が
フェルト周囲から、はみ出ていますので、オリジナルではないでしょう。
でも、バルブとアームを固定しているロウは古いままなので、
単に、バルブ材を剥がして貼っただけと思います。



バルブ材だけ交換した結果は鍵盤高さに出ます。
高さが不揃いです。
正しい方法でバルブ材を交換した場合は鍵盤高さはキッチリと揃い、
空気漏れも最小になります。
単にバルブ材だけを貼り替えると空気漏れが増える原因になります。



今回はバルブを取り外さずに調整で空気漏れと鍵盤高さを揃える事にしました。



鍵盤を外したついでに折れた部分も補修。
色の変化が出ないように、継ぎ目が目立たないように気を遣いました。
左側にある割れ目がある鍵盤が最初から修復してある方で、
その右隣りが今回、修復した方です。



鍵盤の高さも綺麗に揃いました。