古い楽器の再生62010/04/02

古い楽器の再生をお伝えする記事も6回目になりました。
バルブ関係の交換が終了し、いよいよリードです。
前回の記事はこちらです。
http://accordion.asablo.jp/blog/2010/03/26/4988800
http://accordion.asablo.jp/blog/2010/03/20/4988771
http://accordion.asablo.jp/blog/2010/03/19/4988769


右手側のリードを全部取り出して、リードバルブを交換するために
剥がし始めたところです。この楽器はHMML、41鍵盤ですので、
右側のリードの数は、41×4×2=328 です。
その殆どのリードには皮でできたリードバルブ(サブタ皮)が
貼り付けてありますが、これは劣化して硬化したり、反りが出ますので、
30年経てば交換時期です。反りは製造後、1、2年でも出る場合がありますので、
これは定期点検項目です。新しいうちは交換せずに修正で済ませます。
最近は、合成樹脂や合成皮革の物もありあますが、寿命に関しては
大差ありません。
このペラペラの部品は、重要な役割があり、また、トラブルを起こす
元にもなりやすい面倒な部品です。


アコーディオンのリードは片側からの空気圧で鳴るようになっていますが、
アコーディオンは蛇腹の押し引きで空気圧が逆転しますので、
どちらでも鳴る様にリードは1音につき2枚付いています。
リードバルブは鳴っていない方のリードから漏れる無駄な空気を止める
役割があります。リードは場合により、反対向きの空気でも鳴る時があり、
これを抑える役目もあります。サブタ皮が反ったり、調整が不良になると、
調律のズレや特有の雑音が出たり、無駄な空気を消費したりします。


この楽器は古いわりには反りが少なかったですが、
古くて硬くなった皮は雑音が出やすいですし、今後の使用の事を
考え、全て交換しました。写真は外したリードバルブです。


皮を外した時に、リードを固定しているロウの不良部分を修正しました。
古い楽器ではロウが劣化している場合があります。
そういう時はリードを全て新しいロウで固定しなおす必要があるので、
大変です。この楽器は酷い劣化は無いので一部修正で済みました。


その他、リードの点検を行い、鳴りが悪い部分は全て修正しました。
リードは調整が悪いと鳴り始めが遅くなります。経年劣化では、その様な
事になりませんので、楽器製造時から不良なのか、或いは、
過去の調律で変形させたかのどちらかです。
つまり、リードの鳴りが悪いのは新品でも注意すべき点という事です。
また、調律は信頼できる所に出しましょう。
きちんと調整されていない楽器は少ない空気圧で鳴らない音があります。
特に高音の小さなリードではそういう現象が起き易いので、新品、中古に限らず
楽器を購入する時のチェックポイントです。
ただし、リードの鳴り始めの空気圧は音域で異なりますし、それが異常な
範囲なのかどうかは経験者でないと判断しにくいです。
時々、新品だから弾き込めば鳴りが改善するという事を聞きますが、
リードの調整不良は弾き込みでは改善しません。
別の理由で鳴り方が時間経過と共に変化する場合はありますが、
調整不良はどんなに弾いても改善しません。
私が調整した中古楽器はリードの調整不良を取り除きますので、
場合によっては、新品以上の仕上がりと言うこともできると思います。
リードに関して、沢山の修復作業がある事をご理解頂けたでしょうか。


錆が出ている場合は更に大変な事になります。
アコーディオンのリードは極力、錆びさせない努力をしましょう。
錆びさせない方法は、
・よく使う(鳴らす)こと
・ハードケースにしまって長く放置しないこと
・湿度の高い空気、汚れた空気の場所で使わないこと
・高湿度で保管しないこと
・潮風に当てないこと
・冷えた状態から急に温めて内部で結露させないこと
などです。
シリカゲルを入れて安心している方もいるかと思いますが、
ハードケースにはシールやパッキンが無いので、すぐに飽和してしまいます。
飽和した乾燥剤は、場合により水分を放出するので逆効果です。
まあ、練習を良くやれば楽器も快適という事ですね。
楽器を複数お持ちの方は、順番に日替わりで使いましょう。
もし7台も楽器があったら1週間で一巡ですね..
販売店やメーカーが、過度な在庫を保管しないのは、
錆やカビ対策でもある訳です。メーカーは大抵、受注生産で、
ボディーなどは余分を作って保管していますが、
リードは作る時に調達するか、在庫は丁寧に防錆紙に包んだ状態で
楽器に搭載される日を待っているという感じです。

飲み会2010/04/02


2年前まで勤めていた会社の元同僚と飲みに行きました。
最初は、元の部署から離れていった私を含めた3人での
年に3、4回の飲み会でしたが、昨年から現役の元部署の1人が
加わり、更に今回は、やはり現役の元部署から女性が1人参加で
合計5人の盛大?な飲み会になりました。
会社を辞めて2年ですので、まだ仕事や人間関係の話は殆ど
ついて行く事ができます。彼らも変に気を遣う事なく会社や
仕事の話題をしますので、なんだか自分もまだ会社にいるような
気持ちになります。部署が変わっただけみたいなそんな感じ。
実際、会社は徒歩圏内で、金山という場所も飲み会でよく使いましたし。
それにしても、会社を辞めてもまだこうして元同僚と飲める事は
幸せですね..

古い楽器の再生72010/04/04

中古楽器の再生をご紹介する記事の7回目です。
前回の記事はこちらです。
http://accordion.asablo.jp/blog/2010/04/02/4999743



右側のリードバルブの交換が終わると、次は左側です。
つまり、ベースやコードを鳴らしているリードの方です。
リードバルブについては前回の記事で説明している通りです。
左側は、枚数こそ右側より少ないですが、一つの大きさが大きいです。
ちなみに、この楽器のベースリードは5セットありますので、
12×2×5=120枚のリードバルブが付いています。
左側のリードの数ですが、例えば32ベースでも1オクターブ分の
リードが必要ですので、120ベースでも32ベースでも同じです。
ボタンの数が違うだけで、実はリードは同じ数です。
もちろん、リードセットの数が変われば違ってきますが。


古いバルブを外した残骸です。丸いのは大きさ比較の10円玉。
この後、新しいバルブを取り付けました。
右側と同様、リードを取り付けているロウの一部に、
隙間ができている箇所がありましたので、新しいロウを使って
修正する作業も行いました。
ここまでやってやっと、調律に入る事ができます。

古い楽器の再生82010/04/05

中古楽器の再生作業も大部分が終了し、やっと調律に入る事ができました。


しかし、その調律も大変な作業です。
特にこの楽器は、HMMLのダブルチャンバーですので、
調律するリードが多い事に加え、難しい高音の小さなリードの調律や
出し入れが面倒で、出し入れで音程が大きく変化するチャンバーが
ありますので、より大変な作業になります。
この楽器のリードの数は、
右 41×2×4=328
左 12×2×5=120
という事で、合計、448枚のリードを調整して行く必要があります。
例えばの話ですが、1枚のリードの調律を1分で行っていったとしても、
休憩なしで7時間28分必要です。
ですが、実際には平均1分で仕上げる事など不可能です。


アコーディオンの調律はリードを削って行います。その為、
弦で鳴る楽器の様に音を鳴らしたままで音程を前後に調整する事が
できません。必ず音を一旦止めなければならない。
音を鳴らす→ズレを見る→削る→音を鳴らす..
これを何度も繰り返す必要があります。


チャンバーの付いた楽器が大変なのは、リードが2階立ての様に
なっていて、奥のリードを削るには手前のリードを取ってからしか
アクセスできないからです。また、手前のリードを外したままにすると、
実際に鳴る音と食い違うので、不要でも全てのリードを取り付けて
チェックする必要があります。ボタン式のチャンバだと、3段になっている
物もあるので大変さは更に増します。


調律を行うのはリードを削る..と言えば単純ですが、
その方法には決まりがあり、自己流で行えば、リードの寿命を縮めたり、
発音が悪くなったり、錆の原因を作ったり..色々な害が出ます。


この中古楽器ですが、全体に6セント程、低い状態で調律されて
いました。一般的には、その程度のズレであればズレに合わせて
全体を調律してしまいます。新品の楽器など、大抵、そんな風です。
この楽器は完全レストアを目指すので、もちろんきちんとした基準に
合わせますが、殆ど全てのリードを高くしなければならないので、
一番大変なタイプの調律です。ちなみに、A=442Hzで調整します。
日本に輸入されてくるアコーディオンは特にオーダーしなければ、
442Hzで調整されてきます。ヨーロッパで購入した楽器や、
個人輸入した中古などは、440Hzになっている場合がありますので、
ピアノや他のアコーディオンと合奏する方は調律し直す方が良いでしょう。


最終的な調律の確認は、楽器を使える状態に戻してみないと
正しい音程を示さないリードが幾つか出てきます。
なので、分解した楽器を元に戻し、蛇腹も取り付けて、
実際に弾く時の状態でチェックします。この時、ズレがあれば
また分解して..という途方も無い作業が続くのです。
アコーディオンの調律代金が高いのは作業時間が多くかかるからです。
別な言い方をすると、調律が妙に安かったり短い期間で終了するのは、
何かがおかしいと言えます。


アコーディオンはピアノの様に常に張力がかかっている訳ではないので
一定期間で全ての音に狂いが出る事はありません。
一般的な使用であれば3年に一回の調律でも十分だと言えます。
もちろん、プロの方や音に厳しい方は別です。
ピアノの調律は毎年1、2回行うので、年間当たりの調律代は
ピアノと大差ないと考えれば多少、気が楽でしょうか..

古い楽器の再生92010/04/08

中古楽器の再生記事の9回目です。
前回の記事はこちらです。
http://accordion.asablo.jp/blog/2010/04/05/5012827


今日は定休日ですが店を開けずに調律を行いました。
実はこの楽器、納期が明日に決まっているのです。
仕上げも含めて、夕方には調律完了!
ちょっと弾いてみましたが、バルブ交換を行って、調律も終わり、
高級楽器の実力を引き出す事ができています。
これで後は、細かい修理と見栄えの改善だけです。


蛇腹と本体の間にあるシールを交換しました。
この楽器は発泡ゴムのシールを使っていて、まだ気密は保っていましたが、
先の事を考えて交換です。この部分は、古い楽器だと天然皮革や、
綿の紐でできたシールもあります。そういう物の時は、何も考えずに
即交換します。


蛇腹の両面にシールがありますので、ベース側のシールも交換。


蛇腹留めは激しく傷んでおり、黒いビニルテープで汚く補修してありました。(写真下)
これではいくら中古でも商品にはなりませんので、これも交換。
同じタイプの部品が無かったので、新しいタイプの物(写真上)にしました。
蛇腹留めが変わっただけで、かなり見栄えが変わりました。


今日はここまで..
明日は、お化粧して、お客様への引渡しです。