鍵盤ハーモニカの調律2016/01/06

滅多に来ないのですが、鍵盤ハーモニカの調律を承りました。
お客様はアコーディオンの修理で以前にもお世話になっている方です。



当店では、口で吹くリード楽器のアコーディナ(Accordina)を販売しているので
同属楽器の鍵盤ハーモニカの修理、調律も承っております。
今回の楽器はオレンジメタリックカラーの高級な物です。



スズキ楽器のPRO-37という楽器です。
お客様による調律の狂いの指摘箇所は付箋が貼ってありますが
全体の調律を行います。

私もアコーディオンを始めた頃に気軽に持ち出せると思い、
同じスズキ楽器のPROモデルを購入した事があります。



外のケースを外しました。
すると昔の記憶が蘇りました。
黒い内側ボディーに長方形のゴム板が貼ってある箇所があります。
吹き口のすぐ後のあたりです。
私が以前に購入した時すぐに分解し、この謎のゴム膜を確認して
すぐに埋めた記憶があります。

このゴム膜は内部の圧力が一気に上がらないように逃がしている物と思います。
考えつく理由は2つあり、一つは低音のリードではあまりに強く吹くと
反応しなくなるのでそれを防ぐ事と、ゴムの復帰による余韻的な効果を生む為?と
思いますが本当のところは知りません。
最初にこの楽器を鳴らした時に安い楽器と比較してダイレクト感が無いな..と
思いましたが分解してこのゴム膜が息の急激な変化を吸収している事が分かり、
板で埋めてしまいました。
息の急峻な変化を表現の為に与えてもゴムがペコペコと動いて
圧力変化をなだらかにしてしまうのでダイレクト感が損なわれます

この機能は、Proと名の付くモデルより低価格なモデルに付けた方が
良いような気がします。
Proレベルの奏者は自分で息を細かくコントロールできますので、
余計な楽器任せの制御は不要と思うからです。
Proレベルの方はここを埋めて息のダイレクト感を高めてみる事をお勧めします。



内部のケースを分割しました。
鍵盤ハーモニカの大半はリードの後にバルブがありますが、この楽器もそうです。
アコーディナやクラヴィエッタではバルブの方が先にあります。
後、先、というのは空気の流れる順番の意味です。
鍵盤ハーモニカの殆どが何故、後バルブ式なのかは知りません。
アコーディナのように先にバルブがあるとリードはケースの外側に出てきますので、
分解せずに調律ができますし、音もダイレクトに外に出てきます。
アコーディナなどではバルブは息の吹き込みで閉じる方向に動くので
空気漏れの心配もありません。
エンジンのバルブと同じように内圧が上がると閉じる方に働くという事です。

後バルブの場合は息で内圧が上がると開く方に動くので
空気漏れが起きやすくなります。
それを防ぐには鍵盤のバネを強くする必要が出ます。
後バルブでも構造を工夫すれば逆向きに作れそうですが複雑になりそうです。

色々考えると、先バルブの方が良い点が多い気がしますが、
特許とかの関係でマネできないのでしょうか?
それとも、別の何か大きなメリットがあるのかも知れません。



息で吹く楽器ですので、ちょっと吹いただけでリードが結露します。
結露は吐息中の水分が楽器内の冷えた部分に触れる事で起きます。
後バルブの場合は吹き口からすぐにリードとなるので結露もしやすいです。
結露は調律のズレや発音不良の元になりますので、
できれば演奏中でも最小限にしたいところですが..
子供の時に学校でやった時のようなホースを使った演奏をすると
結露はしにくくなりますが、私はホースでの演奏は見た目が悪いので
あまり使って欲しくないアイテムです。
吹く楽器、例えば縦笛やサックスやフルート等々..
ホースで繋がっていて吹く方法でやったら..
想像するとやっぱり格好悪い。

アコーディナの古いオリジナルの物や同じ時代のクラヴィエッタ、
古いHOHNERの鍵盤ハーモニカでは吹き口からケースの外周に沿って空気を流し、
末端でUターンさせてからバルブやリードに届くようになっています。
ケースの底が2重になっているのでそんな事ができますが、
リードに届く前に息が冷却され結露が先に終了するという機構です。
大変凝っていますが最近では省略されている機構です。
結露防止の為にS字の細い金属管を吹き口にしている
鍵盤ハーモニカ的な楽器をアコーディオンメーカーが作っていた事もあります。
ホースじゃなくて金属の管だったらカッコイイですね。



リード周りの清掃とリードの調整を行なった後に調律を行いました。
鍵盤ハーモニカの調律は結構難しいところがありますので、
アコーディオンより単純ですが時間はそれなりに掛かります。



コメント

_ tachinon ― 2017/02/08 08:52

毎回楽しく読ませてもらっています。
 私も同じような理由で、メロでィオンPro37をもっています。・・・やっばりなんか調律が狂うような気がします。・・・、高湿度の空気を、ハーモニカのようにオープンな構造でなく「密閉された」箱の中にあるリードに当てることは、リードにとって好ましくないのでしょうね。
 ゴムの「安全弁」初めて知りました。

 下流側バルブの件ですが、
「風の流れのバルブの下流側にバルブをつける」みたいな原則というか、そういうものがある、・・とリードオルガン関係のWebサイトで見た記憶があります。。
 どこのサイトで見たのか覚えていないのですが・・。
 たしかに、吸込み式リードオルガン(日本で普通に見られる足踏み式オルガン)ではそうですし、ハルモニウム(加圧式のリードオルガン)でも、そのようですね。
 
アコーディオンの場合は、「携帯性」が第一だし、リードと外界を区切っているものが蛇腹という薄っぺらな紙(の類)だけなので、その辺は「実用的に問題ない」として「割り切った」のかも。

 日本の技術者は結構「原則に忠実」で、「妥協しても実用的に問題はない」と思われるのに「原則に拘る」傾向があるし、またそれが「コアなマニア」に受けるということもあって、そうなっているのかなぁ・・・と推測しますが、如何なものでしょうか。

 ちなみにパイプオルガンに、笛の下流側にバルブをつけたら・・・パイプを囲うようになってしまいますね。(笑)

_ Cookie(店主) ― 2017/02/08 20:31

tachinon様、コメントの書き込みありがとうございます。
鍵盤ハーモニカやアコーディナなどは吹き込むと体温でリードの温度が上昇するのでピッチが変化する事が避けられません。
湿度の変化程度ではピッチは変わらないと思いますが、リードに水滴が付けば重さのバランスが変わるのでピッチが変わるでしょう。ハーモニカなど、この手の楽器についてはあまりピッチに対して神経質にならないのが良いと思います。それでも、オクターブユニゾンで鳴らして波が速く出る場合は調律が必要と思います。

リードとバルブの位置関係についてはあまり語られていないような気がします。恐らく、奏者としては普通に使えればどちらでも良いという事かな?と思います。
殆どの場合、使っていて気にも留めていないと思います。

考えてみれば、口で吹く楽器でバルブ操作で発音のON/OFFをする楽器というのはあまり無いと思います。
管楽器のバルブは管長を変化させる物なので空気を止めるバルブとは別ものです。
口で吹く楽器で音を止めるのはタンギングだから前バルブと言えるかも?

アコーディオンは空気の向きが変わる楽器なので条件としてはかなり厳しい楽器と思います。蛇腹の開閉の向きに関わらず同じような音を出さなくてはいけないので。
実際には僅かですが蛇腹の開閉で音質は違っています。演奏上、問題になるレベルではありませんので気にしている人は少ないと思います。
空気の向きの違い以上に、空気の向きが変わる事で別のリードが鳴っている事の違いの方が大きいかも知れません。

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